水槽脳の栓を抜け

SF作家 草野原々のブログ

"DOOMSDAY, BISHOP USSER AND SIMULATION WORLDS" まとめ(2)

Alasdair M. Richmondの"DOOMSDAY, BISHOP USSER AND SIMULATION WORLDS"まとめ第二回です。

論文は

https://www.era.lib.ed.ac.uk/handle/1842/2111

で読めます。

 

 

2)若い地球(Young Earth)

Timothy Chambers は終末論法を批判するために、'Ussherian Corollary' (UC) というパロディ論法を考え出した。もし、終末論法が正しければUCも正しいということになり、それはナンセンスであるとする。

 

UCは17世紀の僧侶であるJames Ussherの『世界は紀元前4004年にできた』という説は確からしいとする。

なぜか、それは、終末論法を未来に適用するのではなく、過去に適用した結果だ。

終末論法によると、人類滅亡は近いということになるが、それでは人類誕生も現在に近いという結果となる。

 

この論に対しては、五つの反論がある。1~4まではどってことない反論であるが、5番目の反論は深刻なものだ。

 

反論①:終末論法とUCを対象的なものとしていいのか?確率論的な論証は、しばしば、準拠集団の設定がよくないときにパラドックスを起こす。おそらく、DAは妥当であるが、UCにおける準拠集団にわれわれは入っていないのであろう。

 この反論は、DAとUCの準拠集団がどのように妥当かどうか述べていないため不適当である。

 

反論②:Chambersが終末論法のパロディにすべきなのは世界は紀元前4004年前にできたというUssherの説ではなく、もっとラディカルなラッセルの世界は五分前にできたという説である。

この反論は、単にUCが想定している過去は長すぎるとしているだけで、根本的な反論にはなっていない。

 

反論③:UCは終末論法を否定するのではなく、その確証性を上げる。もしもUCが正しいとすると、アダムとイヴの時代から現在にかけて、すさまじく急激な人口カーブを書いて人口増加が起こっていることとなる。終末論法はわれわれはそのカーブのなかでそのような急なカーブのなかにいる確率は低い(もっと平均的なところにいる)と想定している。よってUCを出すことにより終末論法が確実なものだとわかる。

この反論は、終末論法も未来方向に関してUCと同じような不自然さがあることを説明していない。

 

反論④:終末論法が想定する終末は絶滅などによる終末であるが、別の種が人類から分岐していくかもしれないということは否定しない。一方、UCは世界の創造を想定し、終末論法と同じように過去の種は人類とは別の準拠集団であるが、人類の先祖であるという想定はしない。

この論法は、UCを次のように変形させることにより論駁される。西暦4004年に、突如として人類に意識が誕生した、それ以前の人類は意識のないゾンビであるという仮説だ。

 

反論⑤:1から4にかけての反論は、終末論法とUCの対称性を否定できないが、次の反論⑤はそれができる。UCは、もし終末論法が経験的データを無視するならば、それに対しての有効な反論となるだろう。

 しかしながら、近い将来の終末が近い過去の世界誕生よりもありえそうだということは、経験的な知識からわかることだ。

 

この反論に対して、終末論法の確証性を下げ、UCの確証性を上げるには、将来の人類終末がおこる可能性は非常に低いと主張する宇宙論的事実があればよい。『宇宙において知的情報処理が出現すれば、それは滅びることのない』とする最終的人間原理(Final Anthropic Principle)がその候補となるだろう。しかしながら、FAPは人間の永続性を主張したものではなくて、知的存在の永続性を主張したものであるため、ここでは使えない。