水槽脳の栓を抜け

SF作家 草野原々のブログ

理由の内在主義と外在主義【鴻 浩介(2016)】

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動機理由と規範理由:二種類の行為の理由。
動機理由:行為者を行為へと動機づける理由。「~である」命題
規範理由:行為を支持し、客観的に正当化する理由。「~すべき」命題


理由の内在主義:規範理由についての説。考慮事項Aがある行為の理由であるならば、行為者はAにより行為へと動機づけられることが可能でなければならない。
内在主義の一般形:ある存在者R、行為者A、行為タイプTについて、Rが「AにとってTをなすべき理由」ならば、ある自明でない条件Cが整えられれば、AはRによってTすることへと動機づけられるだろう。
Rには何が入る?:心的状態の内容となる存在者
条件Cとは?:たとえば、正しい知識を持っていたならば、などのRによる動機づけが生じる条件。この条件を限定すれば内在主義全体はより広範囲に合う説となり、逆にCが広範囲にわたると内在主義が広範囲に適合するのかは怪しくなる。
動機的力の要請:内在主義の根拠。規範的力は動機的力を含意する。

 

徹底的な外在主義:理由は動機的力を持ってない。主張者にはパーフィットなどがいる。
では規範的理由とは何?:道徳的真理であり、それは信念に働きかける力を持っていない。
理由の根源主義(primitivism):理由とはそれ以上説明できない概念であるという立場、外在主義と親和性が高い。

 

内在主義の根拠①:理由は推論において考慮事項となる、ゆえに行為の理由は実践的推論において利用される。実践的推論は動機付けプロセスであるため、理由は動機的力を持つ。
内在主義の根拠②:「認識的アクセス不能な事実は行為の理由になりえない」ということを説明できる(Cの設定により)
内在主義の根拠③:実際に理由に動機づけられるかとは別に、理由によって動機づけられるべきということは広く認められる。「べし」が「できる」を含意するならば内在主義が帰結する。

 

内在主義の諸理論:Cをどのようなものにするかにより分岐する。

熟慮的内在主義:Cとは「行為者が自身の主観的動機群を前提としたうえで、理想的な熟慮を行うこと」である。提唱者はウィリアムズ
主観的動機群:行為者を動機づける心的状態。欲求・評価の傾向性・情動的反応のパターンなど
理想的な熟慮とは?:相互に矛盾しないなどの形式的な制限(内容で制限しているわけではない)

熟慮的内在主義の問題:主観的動機群に共感的動機が欠けるためにいじめを行う人物に対しては、いじめをやめる理由はないことになる。道徳的相対主義をとれば回避できる問題。
理由の数に関しての過少生成:熟慮的内在主義は理由の存在を不当に制限しているという批判。

内在主義の返答①:事実を正しく認識するということは、それだけでいじめを止める理由となるため、正しく熟慮すればいじめは止めるはずだ。
内在主義の返答②:行為者である限り必ず有している特権的動機が存在する(この論文では詳しく書かれていない)
内在主義の返答③:Cに形式的な合理性だけではなく、実質的合理性を条項に加える。「理由は合理的な人物を動機づけねばならない」ため、非合理的人物がいかに熟慮を重ねても動機づけられないことが、行為の理由ではないことにはつながらない。

 

著者が言う熟慮的内在主義のメリット:「合理的説得」をよく説明できる。行為者に正しい熟慮をうながすことが合理的説得である。

著者の主張:共感的動機に欠ける人物は、いじめを止める理由がない。
錯誤論:いじめをする人物にいじめをやめる理由がないことと、わたしたちにいじめを止めさせる理由があることは両立するが、両立しないように錯誤してしまう。