水槽脳の栓を抜け

SF作家 草野原々のブログ

イカは宇宙を飛び、シンギュラリティを起こす/『Manifold:Time』感想

 今回紹介する本は、未訳のSF長編である。誰にも訳されていないのだ。

 

Manifold: Time

Manifold: Time

 

 


 むろん、英語がずらりと並んでいる。英語のみの小説を読むのは、難しいことだ。世界一TOEICの点数が高い人にとってみれば、簡単なことかもしれないが、それ以外の人には難しい。
 しかし、わたしは頑張って読んだ。ところどころ意味が分からないところがあったが、全部読んだ。なぜか? スティーヴン・バクスターの作品であるからだ。
 スティーヴン・バクスターといえば、とてもすごいSFを書くと有名な人だ。銀河規模・宇宙規模・時空規模のガジェットを惜しげもなくバンバン投入し、しかもそれが最先端物理学で裏付けられている。さすがは工学の博士号を持っているだけある。
 今回紹介する『Manifold:Time』は、そんなバクスター作品のなかでも『異色作』と位置づけられるところのもので、おもちゃ箱をひっくり返したような色とりどりのアイディアが整理されぬまま散らばっている。
 なかでも、すごいのがイカだ。イカが空を飛ぶ。いや、空どころではない宇宙を飛ぶ。いやいや、もっとすごい、超遠未来の宇宙を飛ぶ。どれくらい? 分からん。よく分からんが、数兆年後は超えているらしい。なんだか、陽子が自然消滅するくらいのそんなすごい未来らしい。そんな宇宙を飛ぶイカを描いたのは、SF史上においておそらく最初であろう。何事も、史上初は良いものだ。ちなみに、イカはヤリイカである。ヤリイカとは、寿司のネタとして有名なイカだ。スルメイカよりもランクは上のようだ。
 このヤリイカ、遠未来の宇宙を飛ぶだけでなく、シンギュラリティまで起こす。シンギュラリティとは、知能がどんどん上がっていくことだ。皆さん、コンピュータの発展によりシンギュラリティが起こると考えているが、それらはすべて間違いなのであり、実際のところシンギュラリティを起こすのはイカだ。
 イカがどうしてシンギュラリティを起こすのか? それは謎である。正直、わたしは読み取ることができなかった。頭足類の専門家ならば読み取ることができると思うので、是非とも読んで欲しい。どうやら、卵を産むと、次世代のイカはどんどん賢くなるようだ。驚くべき事実である。
 イカなんて単なる貝の化け物だ。そんなもん見たくないよ! という皆さん。ご安心ください。イカは中盤くらいで死にます。後は人間が主人公です。十本脚もいいけど、やっぱり二本脚だよね。そして、二本脚の主人公と一緒に知性が宇宙に果たす根源的な役割を追求しよう! 冬休みの間に人間と宇宙の関係性について把握してクラスメイトに差をつけよう!