水槽脳の栓を抜け

SF作家 草野原々のブログ

【まどかマギカ】ほむら宇宙バランス崩壊仮説

映画最後のほむらとさやかの会話を元に、考察しました。

ネタバレあります

 

 

映画「魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語」においての一番の謎は、ほむら改変後の宇宙がどのような宇宙なのか、である。

そのヒントは、映画終盤においてのほむらとさやかの会話に隠されている。この会話、普通に聞いていたらやや意味不明に聞こえてしまう。

さやかの「まさか、宇宙を破壊する気!?」というさやかの問いに対して、ほむらは「全ての魔獣を倒したら、この宇宙を壊してもよい」と答える。これは一体どういうことだろうか?ほむらの目的はまどかとの再会である。「宇宙を破壊する」という目的は、彼女にはまったくなかったはずだ。

このような会話の違和感は、さらに続く。エンディング前のほむらとまどかとの会話を思い出してみよう。ほむらは「この世界の秩序は大事だと思う?」と問いかけ、まどかはそうだと答える。その答えを受けたほむらは「あなたは敵になるかもしれない」と言い、去っていく。このとき、「この世界の秩序」とは一体何を指しているのだろうか。理となったまどかのことだ、まず考えられるのはそのことだ。だが、忘れてならないのはまどかもまた世界を改変しているということだ。「世界の理」を変えたというのならまどかも同罪だ。このとき、ほむらは明らかに世界改変そのものの倫理を述べているのではない。

これらの問題を解決するために、わたしは『ほむら宇宙バランス崩壊仮説』を唱える。

この説の前提として、ほむら宇宙の魔法少女システムは抜本的に変革されているとする。ほむら宇宙では、QB文明が莫大なエネルギーを供給することにより、魔法少女のソウルジェムの濁りは取れ、彼女たちは魔女化も消滅もしない(詳しくはhttp://the-yog-yog.hatenablog.com/entry/2013/10/31/211246

ここで思い出してほしいのが、TVシリーズで出現した後、全くもってストーリーに有効活用されていない設定があるということだ。一つ目は「QBの種族において感情を持つのは精神病にかかったとき」ということ、二つ目は「QBは宇宙のエントロピーを下げようとしている」ということだ。

この仮説は後者の設定を活用する。QBが魔法少女システムを作り出したのは、宇宙のエントロピーを下げ、熱的死を回避するためだった。では、ほむら宇宙ではその魔法少女システムはどうなっているか。それはエネルギーを作り出すどころか、QB文明のエネルギーを消尽させる存在となっているのだ(なお、作品世界での「エネルギー」は現実世界の物理学で使われるエネルギーとは違い、「エントロピーを下げる因子」という定義であると推測される)。そのことにより、何が起こるか。エントロピーの爆発的増大だ。

つまり、ほむら宇宙は近いうちに熱的死を遂げるのだ。さやかとの会話で「宇宙を壊す気?」というのはこれを指す。また、まどかとの会話の「この世界の秩序」とは世界改変自体を問題にしているのではなく、宇宙を破壊してしまうかもしれないということを示しているのだ。

では、宇宙の熱的死までどの程度の時間があるのか。おそらく、ほむらの目的からすると、まどかが死ぬまでであろう。つまり、長くても100年ほどである。

この仮説が正しいとすると、更なる仮説が演繹できる。まどかやほむらのレベルに達したとしても、宇宙の根本的な物理法則は書き換えることができないということだ。

そもそも、この仮説を提唱した理由として、TVシリーズのまどか宇宙改変が不自然だったことがある。宇宙の物理法則を書き換えるほどの神となったまどかがやったことといえば、苦役から魔法少女を解き放つことではなく、魔法少女を自動的に安楽死させることだ(円環の理システム)。これは、まどかのレベルにおいても、『魔法を使えばソウルジェムは濁る』という根本的な物理法則は書き換えられなかったからだ。根本的な物理法則を書き換える代わりに、まどかはアド・ホックな物理法則を付け加えるしかなかった。

ほむらの場合も同じである。彼女は、魔法少女を消滅から解放した。だが、そこにエントロピー増大則という根本的な物理法則が立ちふさがった。

つまりは、まどか世界にしても、ほむら世界にしても、両方ともが行き詰まりの世界なのである。ジレンマなのだ。どうあがいても絶望なのである。